2010/12/16

(『ノルウェイの森』)

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トラン・アン・ユンの『ノルウェイの森』。ここ数年で一番長い間楽しみにしていて、一番その出来を心配していた作品。もちろん公開後さっさと観に行ってきた。
が…、まさかの…、まさかの上映設備トラブル! 予告編から音が途切れるなと思って嫌な予感がしていたら、本編開始後もやっぱりおかしい。一時間お湯に浸したカップヌードルみたいに、終始BGMが伸びてぐにゃぐにゃだった。やれやれ、といったところ。

映画館で働いていたこともある身としては納得がいかず、見終えてからもちろん返金してもらった。初めの数分からもう一度観なきゃなと思っていて、それでも立ちあがらず見終えてしまったのは、見慣れた風景に自然と吸い込まれてしまったから。早稲田の、それも自分の通ったキャンパス。何度となく歩いた道や階段でロケをしていた。
原作を読んだときから、イメージする風景は村上春樹も通った早稲田だったし、僕はワタナベ君そのものにどうも自分を重ねてしまうところがある。そういった要素が実態を伴って目の前に現れて、ころっとその世界へ落ちて行ってしまった。

頭痛のしてくるくらいひどい環境で観たので、もいちど観るまであんまり感想を持たないように努めている。それでも印象だけ書いておくと、心配していた菊地凛子の直子は結構良かった。生命力強そうな人だけど、しっかり直子として、脚の折れたテーブルのような命の上に立っていた。
緑はあんまり…かな。こなれた演技でないのが逆に現実味はあったけど、「私、あなたの喋り方すごく好きよ」って、映画で不用意にこぼれたそのセリフほど、安い感じではなかったのではないかと思う。

さあ、だんだん余計なことを書き始めたので切り上げよう。どうせ初めから、酷評にもまみれる運命の映画だけど、きっと悪くなかった。あまりに展開が急だとか、カットがぶつ切りで淡々としすぎだとか言われているはず。でも、とどまることなく自分を押し流していく運命とか女とか、運命のような女とか、そういう村上春樹の作品に感じる要素はそのまま生きていた。文体そのままに近いセリフも、トラン・アン・ユンの良い意味で地面からこぶしひとつ浮いた映像に合っていた。

今週末行けるかな。師走はほんとうに休まらない。毎日、精一杯だ。

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